上杉鷹山とM&A
三億円で売れる中小企業経営
知的財産とは
「知的資産」と「知的財産」を間違うべからず
下記の記述は、自著「継ぎたくない会社はさっさとやめなさい」の
補足として掲載しているものです。
企業文化や人材の質、技術力など、目に見えない企業資産への関心が高まっています。知的資産と称しているものですが、知的資産と知的財産を混同しないようにして下さい。
「知的財産」とはなにか、を先ず説明しましょう。知的財産に関する法律があります。知的財産基本法に知的財産の定義が明記されていますので、転載してみます。
法律の条文はややっこしい言い回しがありますが、知的財産の代表的なものが特許です。特許や知的財産と聞いただけで難しいもの、特定の企業の財産と判断する中小企業経営者が多いのではないでしょうか。知的財産には、知的財産権という権利があります。特許権、実用新案権、意匠権、著作権、商標権などがあり法律上保護される利益に係わる権利です。
「企業における競争力の源泉である、人材、技術、技能、知的財産、組織力、経営理念、顧客とのネットワーク等、財務諸表には現れてこない目に見えにくい経営資源の総称を指す」
知的資産とは、財務諸表等にある有形資産以外のものを総称しており、企業価値を生み出す源泉として捉えられているものです。
知的財産と知的資産では、「財」と「資」の一時違いですが、知的資産という視点は、中小企業経営者にとって自社発展の源泉となります。従来は、経営計画を作成する上で重要なものは決算書分析が定番でした。決算書は経営数字上での分析ですが、知的資産という非財務情報の重要性も提唱され始めたのです。
自著、継ぎたくない会社はさっさとやめなさい!の中で「決算書の読めない後継者」という過去の私の恥部を記述していますが、知的資産経営という視点を誰かが私に指南してくれたならば、苦手であった決算書を読み解くためのモチベーションのひとつになったであろうと、私は振り返るのです。苦手としていた財務諸表以外のものを強みとする経営が知的資産経営です。決算書を読みこなすことを苦手とする以前の私のような後継者のために、知的資産経営の存在を、事業承継の関連項目としてこのホームページで取上げてみました。
先代社長と後継予定者で諮(はか)る自社の未来
下記の記述は、自著「継ぎたくない会社はさっさとやめなさい」の
補足として掲載しているものです。
同族中小企業の創業者の共通点はワンマンということと、カリスマ性を持つということです。何故オーナー経営者はワンマンとなるのでしょうか。
一国一城の主になることは、さほど難しいことではありません。しかし、事業を承継させるという考え方を持てるようになるまで企業を成長させることは、並大抵なことではありません。何もない所から創業し企業を存続させるためには、ワンマンとカリスマ性という強力なリーダーシップが、中小企業の経営者の条件として必要な時代環境であったのかもしれません。しかし現代の経営は、スーパーマンのように一人の能力に頼るだけでは限界があり、ワンマンでは経営の舵取りは難しく、経営のプロ感覚が必要な時代です。
中小企業の後継者は、創業者のようなカリスマ性を持たないものです。さらに、ワンマン経営者が先代経営者として君臨しているのですから、ワンマン度も低いものです。それでは、先代社長のワンマンとカリスマ性で存続してきた会社の後継者は、どのようにして自社の舵を取ればよいのでしょうか。その答えとなるのが知的資産経営であり、知的資産報告書の活用です。
創業者が筆頭となり作り上げてきた自社の歩みと、強みとなっている知的資産や事業内容を、創業時から現在までの経営報告書としてまとめてみるのです。そこから、後継者としての自分のスタンスが見つかるはずです。(自社の強みを知るSWOT分析については自著、継ぎたくない会社は、さっさとやめなさい!の中で記述しています。)
すべての企業はステークホルダーとの関係の中で事業を行っています。ステークホルダーとは従業員、求職者、取引先、金融機関、地域社会、投資家等自社を取巻く人達(利害関係者)を言います。ここでは、先ず事業承継という視点で報告書を作成しますので、開示対象先は後継者とします。
事業承継という視点から知的資産報告書を作成するのは後継予定者の役目と踏まえて下さい。後継者(或いは予定者)が先代経営者の助力を得て、知的資産報告書を作成してみるのです。知的資産報告書の作成方法は別項で後述しています。知的資産報告書の記載内容は次の項目です。
(1)社長挨拶
(2)経営哲学
(3)事業概要
(4)市場環境
(5)過去から現在までの事業展開(経営戦略・事業実績)
(6)知的資産(自社の優位性)
本来の知的資産報告書は、前述(6)知的資産(自社の優位性)の次に、(7)自社の将来展望を記述しますが、事業承継という視点に知的資産報告書を活用するものであれば、(6)知的資産までの作成を一区切りとして下さい。
その理由は、先代経営者の助力で作成した知的資産報告書と共に、本書で取上げている事業承継の数々の問題点を自らの経営環境にあてはめ、事業承継の方法を決めてもらいたいからです。「事業の進路と承継者を決定しよう」でその考え方を後述しますが、知的資産報告書に記載する(1)から(6)までが完成の後、先代経営者と後継者(或いは予定者)間で事業承継についての意思を確認しあい、子息が後継者になるものであれば、次のステップに進んでいってもらいたいのです。次のステップとは、現在から将来への事業展開です。
知的資産報告書の作成を通し事業承継への意思確認ができたならば、(1)〜(6)までの記述した内容を再度振り返り、必要があれば修正して下さい。なぜならば、本来の知的資産報告書は、自社を取巻くステークホルダーを対象として開示するものであるからです。事業承継に知的資産報告書を活用するという発想は一般的に活用されていないのかも知れません。この手法は、知的資産報告書を活用した、鈴木流経験則からの事業承継手法としてとらえて下さい。このことについて、私のケースで説明しましょう。
後継者として父から事業承継したものの、承継事業に区切りをつけ、M&A売却を決断したわけですから、既存事業での将来展望は私の決めるべきことではありません。事業承継は買収側企業の経営者に託し、既存事業とは全く関係のない別会社を設立しました。F番目の「現在から将来への事業展開」まで含んだ知的資産報告書の開示は、別会社で第2創業した株式会社メルサの知的資産報告書となってしまったわけです。株式会社メルサの知的資産報告書をサンプルとして巻末に明記しました。各社実際の作成においては、当社のサンプルを応用しながら、自社に該当する内容を精査し、作成してみて下さい。
ここでは、鈴木流の事業承継ツールの一つとして知的資産報告書の活用を提唱しています。事業承継進路診断として活用した後には、次に開示するステークホルダーは誰かを決めて下さい。事業承継診断用に作成した知的資産報告書を再読し、そのままでよい時は訂正の必要はありません。しかし、開示対象先によっては加筆及び修正の必要な部分もあるはずです。誰に対して知的資産報告書を開示しようとするのか、その対象を明確にして下さい。
私は、知的資産報告書の中に、事業承継の考えかたを記述することもひとつのポイントと考えています。ステークホルダーにとって、係わりを持つ企業の事業承継計画の存在は知的資産のひとつと考えるからです。
ここでは、後継者という言葉の後に、(或いは予定者)という言葉を付け加えました。それは次のような理由です。
事業承継は、大学等のアカデミズムの場で学べる機会がほしいと、私は常々考えています。我が国に数百万の中小企業が存在するものであれば、その数と同等の後継者が大学や短大、或いは専門学校で教育を受けているはずです。中小企業の大半が同族といわれています。本書で取上げている事業承継の問題をこれらの全ての企業が抱えているといっても過言ではありません。後継者として家業(同族企業)に従事してから、事業承継の問題を知り対応していくよりは、学校教育の時点(後継者として事業を承継するか否か未知数である時点)で、事業承継の問題点や知的資産報告書の活用法を実践論で学べる機会があれば、事業承継のリスクが減るものと私は思うのです。
後継者(或いは予定者)という表現は、後継予定者ではあるが、まだ後継するか否か未決断の時期であるというふうにとらえて下さい。実子であるから後継者という時代ではありません。アカデミズムの場での「中小企業事業承継論」の講座開催が、中小企業の廃業率に歯止めをかけることになるのではないでしょうか。
「先代社長にインタビューし、理念とビジョンをまとめよう」
下記の記述は、自著「継ぎたくない会社はさっさとやめなさい」の
補足として掲載しているものです。
知的資産報告書の最初に記述するのが、社長あいさつと経営哲学です。社長あいさつは、それぞれの会社を代表し経営トップとしての姿勢を述べます。注意点は知的試算報告書の開示先は誰かをふまえ、開示先に伝えたい挨拶内容を明記するということです。
続いて経営哲学です。経営哲学は経営理念をベースとした記載内容を検討します。経営理念とは、何のために創業したのか、どんな会社でありたいか、を明確にするものです。経営理念だけにとどまらず、独自の経営哲学の持論がある場合は、理念に付け加えて明記するのもよいでしょう。
私は、生前中の父から聞き漏らしたことがあります。経営理念です。自著、継ぎたくない会社は、さっさとゆめなさい!の中では父との確執ばかりを強調して記述した傾向がありますが、私が家業に従事してから父が他界するまで、四六時中いがみあっていたわけではありません。父の自宅で酒を酌み交わしたり、私達家族と一緒に旅行したり、それなりのコミュニケーションもあったのです。
父は、アルコールが入ると陽気でした。経営上の武勇伝や辛さ、仕事上の技術、さらには自慢話等々、得意になって私に話をしていたこともあったのです。社内の問題点やライバルの動向、そして業界の動向についても二人で話し合う時がありました。しかし、経営理念についての話を聞いた記憶がないのです。当然のことながら、社内に経営理念の掲示物もありませんでした。
経営理念がはっきりしていないと企業の存在価値に迷いが生じます。しっかりとした理念があり、その理念を実現するために経営戦略があり、経営戦略を実現するために経営戦術が存在します。理念がなければ経営方針も明確ではないということです。
私の頭の中に父から経営理念を教示された記憶がないということは、私自身も理念というものに質問せず、無関心でいたということです。本書で私の事業承継の数々の問題点を延べてきましたが、その根本は経営理念の欠如であったのかも知れません。事業を承継する上でも、先代経営者と後継者間での経営理念の再確認を怠ることがあってはなりません。
自著、継ぎたくない会社は、さっさとゆめなさい!において、先代経営者と後継者間で忌憚のない話し合いについて何度も提案しているのは、創業時からの経営理念を後継者が理解する重要性に気付いてもらいたいからです。アルコールが入ると陽気な父という表現をしましたが、アルコールの助けを借りていただけではありません。父の事業成功に対し私自身が賞賛の言葉を送っていたからです。
父という対象者にその限らず、相手を手厳しく批判すればするほど、相手は私に対し攻撃を仕掛けてきます。その批判が当たっていればいるほど相手からの攻撃は強くなってきます。私が相手に関心を持たなければ、相手も私に関心を持つ道理がありません。
父と私にコミュニケーションがあった時期は、私が父への経営方針に対しあまり疑問を持たない時期のことでした。父に代わって経営の舵取りを始めた頃には、次第にコミュニケーションがなくなりつつありました。希薄なコミュニケーションの為に、肝心の経営理念を父から教示されることがなかったのかもしれません。
父から経営理念の教示はなかったのですが、私は自分で経営理念を作り、時折朝礼でも訓示していたことがあります。
「病院寝具リースという事業を通し、入院する患者に快適な寝具を提供するということで、側面から、人々の健康に寄与する」というものでした。
しかし、理念のあり方を十分に認識せず、会社には理念に相当する言葉が必要であろうという単純な考えで作った理念でしたので、漠然としたもので終わってしまっていました。私一人の頭にだけあった理念といってもいいかも知れません。当時の社員にインタビューする機会があれば、私が作成した理念などしらない、と大半の社員が言うでしょう。残念ながら、理念を実現する戦略、戦術に落とし込むことはなく、単に事業を継いでいるという経営のあり方でした。
話しは変わりますが、現在の私の会社では理念を基盤とした経営戦略で進んでいます。最後尾に掲載した株式会社メルサの知的資産報告書の理念には、「中小企業の存続と発展を支援するコーディネート事業」という内容があります。この考え方を受け、我が社は中小企業を顧客とした事業承継支援の仕組みを経営戦略として策定します。さらに、戦略の行動規範をとなる戦術を策定します。知名度を上げるための戦術であり、後継者や事業承継支援の専門家を取囲むための戦術です。決して大企業を対象とした戦略、戦術ではありません。
自著、継ぎたくない会社は、さっさとやめなさい!は大企業の経営者を対象として執筆していませんので、中小企業経営者には理解できるが、大企業の経営者には理解しがたい内容も多々含まれているかもしれません。大企業と中小・零細企業の経営は似て非なるものです。大は小を兼ねるといいますが、企業経営においては大企業であるから、中小・零細企業の経営をうまくコントロールできるとは限らないものです。
後継者は先代経営者の経営手腕に関心を示し、経営者としての偉業を賞賛し、創業時からの経営理念について先ずインタビューをして下さい。それが済んだならば、知的資産報告書に記載すべき内容についてさらなる質問を続けていって下さい。
先代経営者へのインタビューで経営理念を再確認できたならば、先代経営者はどのようなビジョンを抱いているのかの再確認へ移行していきます。ビジョンを再確認することによって,先代経営者の経営マインドに触れることができます。理念とビジョンがありそうで無いのが同族中小企業の現実かもしれません。先代経営者自身も、理念やビジョンという言葉を使用しないだけで、後継者にその内容を伝えているはずです。書面や掲示物で示しておらず、その時々都合のよい言葉で表現しているため、後継者に伝わっていないと思われているのではないでしょうか。自社の理念やビジョンを「見える化」するツールが知的資産報告書です。
ここでは、事業承継診断のツールとして知的資産報告書の活用を提案しているものです。事業承継の進路を決めるために知的資産報告書を作成するわけではありませんが、知的資産報告書は、事業承継を考える上での参考資料(診断ツール)となるはずです。
「今まで経営していた中で一番辛かったことを教えて下さい!」・・という言葉を、先代経営者に投げかけ、知的資産報告書作成の一歩を踏み出してください。この魔法の言葉により、先代経営者は、知的資産報告書作成のため、何時間でも後継者の質問に笑顔で答えてくれるはずです。
「どこで何をしている会社なのかをまとめよう」
下記の記述は、自著「継ぎたくない会社はさっさとやめなさい」の
補足として掲載しているものです。
あなたの会社は何をしている会社でしょうか。
三越、伊勢丹、高島屋などの名前を出せば直ぐにデパートということが浮かびます。しかし悲しいかな、全国の中小企業では、自社の名前を出しただけで何をしている会社かを理解してもらえるだけの知名度がありません。私が売却した会社の事業はリネンサプライ業でした。リネンサプライ業といっても大半の人達が事業内容を知らないようでした。
クリーニング屋さんね。
100人中100人の人が、私が売却した会社をクリーニング屋さんと思っていたようです。間違いはありませんが、クリーニング業と寝具や繊維製品のリース業を合体した事業です。クリーニング屋さんは、顧客の所有する衣服をクリーニングする事業です。リネンサプライは自社で所有する様々な繊維製品を顧客にお貸しし、繰り返しクリーニングを続ける事業です。繊維製品とは、寝具であったり、シーツや浴衣(ゆかた)、そしてタオル等を言います。
リースの対象先は病院や老人介護施設、そして旅館やホテルです。知的資産報告書に事業概要と標的市場を明記するのであれば、事業概要は前述のリネンサプライ業の説明であり、ターゲットとしている市場は、病院や医院といった医療機関、及び特別養護老人ホーム等の介護老人施設、そして、ホテルや旅館といった宿泊施設ということになります。
地元で名士となっている経営者でも、その経営者の主たる事業が何かを、回りの人々が知らないケースの方が多いかもしれません。リネンサプライ業もそうです。大半の人がクリーニング屋さんととらえていたのです。他者が漠然ととらえている自社の事業と市場を、知的資産報告書の中で、事業概要として明確にしておくことは、他者への開示ということにつけ加え、案外、経営者自身のためにも必要なことかもしれません。何をしている会社ですかという質問に的確に、しかも簡潔に答えられない経営者がいるからです。
私が代表者となっている株式会社メルサは何をしている会社ですか?とよく聞かれます。口頭での質問には、簡潔に答えなければなりませんので「事業承継のコンサルティング業」を営んでいますと答えますが、知的資産報告書に「事業承継コンサルティング業」とだけ明記したのでは不十分です。的確にしかも簡潔な表現で、各項目についての記載が必要です。
「過去から現在までの成功の仕組みをまとめよう」
下記の記述は、自著「継ぎたくない会社はさっさとやめなさい」の
補足として掲載しているものです。
過去から現在までの事業展開に対し、知的資産報告書では、ストーリー化しながらの記述が必要です。事業にはライフサイクルがあります。創生期、発展期、成熟期、衰退期という変化です。ライフサイクル各期ごとの事業展開をまとめましょう。
一般的に中小企業の経営戦略は経営者の頭だけにあり、明文化されていません。経営者の頭の中にだけに漠然と残っている、過去と現在の経営戦略を後継者が文章としてまとめ、「見える化」することに大変な意義があります。
同族中小企業の後継者の多くは、先代経営者の指揮管理下で仕事のやり方を徹底的に叩き込まれます。つまり戦術を仕込まれるわけです。戦術は戦略があって成果をあげるものですが、高度経済発展期には戦略不在でも多くの中小企業が発展してきました。戦略不在という言葉を使いましたが、本来経営戦略は先代社長の中に必ずあるのです。前述したように「見える化」しておらず先代社長の頭の中にだけあり、表面に出てこなかったために、戦略不在という言葉になっているのです。言葉で言い表しにくいことを「暗黙知」といいますが、先代経営者の戦略不在ではなく、経営戦略が暗黙知となっているのです。
経営戦略上での先代経営者の暗黙知を後継者が明確に文章化できるほど理解できれば、仕事のやり方は知っているが、経営を知らないと揶揄(やゆ)される後継者のウィークポイントを是正するきっかけともなります。
経営戦略を語る上で専門家の大半が決算書の数字分析で解説しますが、中小企業では、非財務情報での経営戦略も重要です。知的資産報告書でとらえる経営戦略にも重きを置いて下さい。
決算書に計上される売上げは、数量×単価です。その売上げから原価を差引いたものが粗利(あらり)となります。決算書からはじき出す経営戦略は、粗利が計上されることによって、様々な数字分析がはじき出され、その数字に対し戦略が決められます。しかし、粗利の源となる売上げ拡大については数字で分析できません。
私が売却した会社においても、決算書上では優良企業でした。決算書分析による10点満点での評価では、収益性7点、生産性5点、資金性6点、安定性8点、健全性10点、成長性8点、総合では7点という優良成績でした。この成績は売却時の決算書からの分析でしたが、前期の成績より良くなっているのです。
一般的に決算書から様々な経営分析が行われ、決算書からの経営分析は税理士に相談します。しかし、決算書に数字を計上するための売上げ拡大に関する仕組みづくりについて、税理士は教えてくれません。売上げがなければ数字分析ができないのですが、多くの経営者は、決算書からだけの数字上の経営戦略だけを、一様に注視している傾向が大きいのではないでしょうか。
売上げを計上し、拡大させていくために必要なものが経営戦略と戦術であるはずです。現在も営業を続けている会社であれば、全ての経営者が経営戦略や戦術を持っているものと私は考えます。立派な経営戦略であるが、それが経営戦略であると考えていない先代経営者がいるのかもしれません。後継者が先代経営者に代わり、現在まで生き延びてきた仕組み作りを、現在までの経営戦略としてまとめ、経営戦略に裏付けられた過去の実績も、知的資産報告書としてまとめて下さい。
「会社の強みを掘り起こそう」
下記の記述は、自著「継ぎたくない会社はさっさとやめなさい」の
補足として掲載しているものです。
「株式会社メルサの知的資産報告書」の「Y.我が社の知的資産」をご覧下さい。こんなものが知的資産なのか、と思われた方がいるのではないでしょうか。特許等の財産であれば立派な知的資産のひとつですから、特許取得の内容を記述すれば、なるほどと納得されるでしょう。知的資産は会社の強みとなるもので、バランスシートに記載される以外の無形資産です。こんなもの?・・と見過ごしているものの中で知的資産となるものを探し出してください。
・私を講師として迎えてくれる「主催者」がなぜ株式会社メルサの知的資産なのか?
・
「マスコミ報道」がなぜ知的資産なのか?
・「経験則」がなぜ知的資産なのか?
私への講師依頼者は、信頼ある機関や知名度のある企業です。中には一部上場企業からもお呼びがかかります。知名度があり、さらに信頼ある機関や企業から、講師のご依頼を頂いているという実績も、私は知的資産として位置付けているのです。
マスコミ報道はどうでしょうか。報道各社とのコミュニケーションは、取材時の一過性がほとんどです。しかし、知的資産報告書に明記したマスコミ各社の大半が全国紙(誌)でメジャーなメディアです。そのマスコミに小社が取上げられるということは、事業の優位性が評価されているものであり、立派な知的資産です。講演先とマスコミ報道の実績だけで売上げや利益が拡大しているわけではありませんが、実績の活用次第で、小社成長のための一要素となっていることは事実なのです。
経験則も過去にどのような経験をしてきたかが重要です。コンサルティングスキルや、インストラクションスキルを必要とする当社においては、立派な知的資産となります。世襲承継で親が社長であったから後継者となっただけではなく、後継者としての様々な苦労体験の末にM&A売却の決断、そしてM&A売却実践、さらに、会社を売って第2創業という通常経験しないような実体験が立派な知的資産なのです。
一方、メルサ創業前に売却した会社には、立派な知的資産がありました。病院寝具リース事業は関連団体への加盟も必要でした。当然のことながらこの団体加盟の基準も高く、この団体に加盟しているということも知的資産のひとつでした。さらに、医療関連マル的マーク取得、国公立病院という顧客層、連続選択システムという洗濯から仕上げまでの自動化システム等々、現在のメルサと比較すると、なるほどすごい!と感嘆できる資産内容でした。
自社の知的資産を抽出するひとつの方法として、ブレインストーミングという方法があります。ブレインストーミングとは、グループ間で自由に意見を出し合い、あるテーマに関する様々な意見を抽出する技法のことです。質より量を重視し、どのような意見にも批判をせず、自由に意見を出し合う創造開発の手法です。
ここでは、先代経営者と後継者で共同作成する知的資産報告書の作成がテーマですので、先代経営者と後継者の2者で自社の強みを出し合ってみましょう。ブレインストーミングは自由奔放、批判厳禁ですので、どのような意見でも取上げなければなりません。先代経営者は案外頭が固いものです。後継者の柔らかな発想で自社の強みをどんどん抽出して下さい。
頭が固いのは先代経営者ばかりでなく、後継者の頭も同様に固いのかもしれません。自由奔放といいながらも自社の強みを表現できないのです。実際にやって見ると自分の頭の固さがわかります。自分の意見が出せないということは、自社の強みを見過しているということです。しかし、心配はいりません。ブレインストーミングという手法に慣れていないだけです。なんども繰り返すうちに自社の強みが次々と浮かんでくるはずです。
仕事上での工夫やマスコミで取上げられた実績、社員の質や組織力、その他目に見えない資産を意識しながら、何度でもブレインストーミングで自社の強みを発掘して下さい。一人だけでもブレインストーミングは可能です。私はいつでもテーマを決めて一人でブレインストーミングを行っています。頭の中だけの創造は直ぐに忘れてしまいます。いつもメモ帳を携帯し、メモとして残しておく癖をつけて下さい。あるメモとあるメモが合体すると、気付かなかった自社の強みを活かすアイデアとなり、知的資産となることに気付くことがあります。
知的資産の発掘を提唱している私ですが、大きな知的資産があることに気付いていませんでした。
M&A買収経験という知的資産です。
再度巻末の「知的資産報告書」をご覧下さい。YのAに「経験則(3)新工場操業の為のM&A買収実践」という記載があります。私のM&A買収という体験は、株式会社メルサの知的資産報告書を本書に記載するため、自らがブレインストーミングする中で発掘することができました。
M&A買収の経験は平成9年のことです。創業時からの工場が手狭になり、業務委託先や工場用地を探している時期でした。経営破たん寸前の染色工場があるという情報が、地元金融機関から入りました。この染色工場は井戸水が豊富で、1500坪の敷地内に4棟の建物がある会社でした。
少しの建物のリニューアルと機械設備の投入で短期間で操業ができるようでした。豊富な井戸水は洗濯工場には最適です。私にとって大変魅力のある会社でした。株式譲渡や事業譲渡というM&Aの手法ではありませんでしたが、不動産だけの買収ということで、この染色工場と売買契約を結びました。
売却した会社の強みとして前述した、連続洗濯システムとはこの工場に配置したシステムです。決算書には、機械装置として計上されていますが、このシステムは、洗濯物投入から仕上げまでの自動化を実現しているシステムであり、システム自体は知的資産としてふまえたものです。
自著、継ぎたくない会社は、さっさとやめなさい!の原稿執筆までは、不動産買収についてあまり気に留めることはありませんでした。しかし、M&Aという視点でとらえれば、会社ごと買収したわけではありませんが、不動産に的を絞ったM&A買収に替わりありません。仲介者は当地の金融機関でした。不動産売買契約書は私自身が作成しましたが、仲介者も立会人として署名、押印していることを再確認できました。この買収から5年後に、今度は買収した不動産も含め株式譲渡で経営権も含めM&Aで売却したのです。
買収した敷地と不動産がなければ、私のM&A売却は成立しなかったはずです。創業時からの工場には複数の不動産権利者がいたことや、工場の老朽化と手狭さの他、市街地となっていたこともあり工場操業の規制も厳しくなりつつあったからです。
M&Aで買収し、M&Aで売却するという実践経験という資産価値だけではビジネスに結びつきませんが、私の実務経験を元にしたコンサルティング手法は知的資産とふまえるのです。
知的資産経営は知的資産自体が価値を生むものではなく、それを活用した経営経験が価値を産むということです。知的資産経営に貢献できる目に見えないあなたの会社の資産を、ブレインストーミングで多数見つけて下さい。
「事業の進路と承継者を決定しよう」
下記の記述は、自著「継ぎたくない会社はさっさとやめなさい」の
補足として掲載しているものです。
会社創業時からの自社の知的資産報告書をまとめることができたならば、自社の進むべき道を決めなければなりません。ここでは、アンゾフの企業戦略に知的資産報告書と事業承継の問題を重なりあわせ、自社の出口を判断する方法を述べてみます。
アンゾフの企業戦略は、イゴール・H・アンゾフという経営学者により、1965年に出版された企業戦略論の中で示されているものです。アンゾフのマトリクスとして、製品を旧市場と新市場に区分し、市場を新市場と旧市場に区分した、次の4つの戦略として知られています。
- 市場浸透戦略
現在の市場で、現在取り扱っている製品の販売を、さらに強化する戦略です。現市場で既存商品をより多く買ってもらえるよう、商品のラインアップの充実、シェアアップなどで対応しようとするものです。 - 市場開拓戦略
現在の製品をより大きな市場に拡大し新しい顧客を開拓しようとする成長戦略です。例えば、東北で販売している製品を全国で販売、国内で販売している製品を海外にも販売するなど、とにかく市場を開拓しようとする戦略です。 - 製品開発戦略
既存の顧客層に向けて新製品を開発して販売する成長戦略です。現在の市場の強みを生かそうとする成長戦略で、全く新しい製品開発の他、モデルチェンジやバージョンアップも該当します。 - 多角化戦略
新しい製品分野、市場分野に乗り出し、新しい大きな市場に拡大する多角化です。新規分野に参入するため、既存事業のブランド力が通用しません。多角化戦略は本業を離れた事業展開で成長しようとする戦略です。
旧製品で旧市場への浸透を図るのか、旧製品で新市場を開拓するか、新製品で旧市場への売り込みを図るか、新製品で新市場を目指すか、どの戦略を選択するのかということです。M&A売却から別会社で第2創業という私の実践を,アンゾフの戦略に重なりあわせて説明してみましょう。
売却した会社の自社の強みを先述しましたが、私が一人で自社の将来像を頭の中に描き始めたとき、知的資産が時代遅れになっていたことに気が付いたのです。売却した会社の事業のひとつの強みは許認可事業でした。許認可の必要条件として、関連団体への入会や医療関連マル適マークを所得していたのですが、規制が緩和される危惧がありました。顧客となっている国公立等病院等の大口取引先からの受注は、規制緩和から価格破壊による営業戦争の兆しも見せていました。さらに、生産上の知的資産となっている連続洗濯システムも、さらに高度なシステムへの設備投資が求められ、資金面での不安が消せなかったのです。
市場浸透戦略は既に当地では90%以上というシェアでした。当地での営業拡大が見込めないものであれば、当地以外に営業の矛先を向けていきます。しかし、当地からさらに営業網を拡大する市場開拓戦略を考慮しても、全国に同業者が乱立しており、無鉄砲に市場を開拓していっても体力を消耗するだけで、満足なシェアの確保は困難となり、コストだけがかさんで行く恐れがありました。
次に考えるのは製品開発戦略ですが、リネンサプライ業に関連する商品開発にも限度がありました。その限度とは私の商品開発へかける意欲であったのかもしれません。リネンサプライ業は、私にとって天職ではなかったからであると私は回顧しています。
残るは多角化戦略です。多角化の選択には2つの道があります。既存事業の一部門として多角化を進めるか、別会社で多角化(第2創業)を行うかという選択です。さらに、別会社の設立は、既存会社が出資する別会社か、後継者が出資する別会社かという二者択一です。私は後者の道を進みました。その考え方を自著、継ぎたくない会社は、さっさとやめなさい!中で、事業承継の諸問題として様々な視点で記述していますので一読してみて下さい。
知的資産報告書は、後継者が先代経営者から事業を承継するか、しないか、の判断ツールとして活用できます。私の事業承継ケースをアンゾフの戦略に当てはめ、多角化を選択した考え方を説明してみましたが、自社の強みを知る手法としてSWOT分析やクロス分析という手法で判断することもできます。
知的資産報告書を先代経営者と共同作成することを基盤として、後継者自身が独自にマスターしている他の経営戦略を充当し、事業を承継するか否かを診断することもできるでしょう。ブレインストーミングやアンゾフの戦略にこだわる必要はありません。MBAを取得している後継者は、さらに高度な経営戦略と知的資産報告書を摺りあわせ、自らの事業承継診断手法として、自社と自らの行方を決断して下さい。
前述のSWOT分析を活用するときにも二つの活用方法があります。知的資産報告書で活用するSWOT分析は、自社の強みと弱みを基盤とした分析です。一方、組織を持たずに一人で起業する(出直す)場合のSWOT分析は、自分に対する個人の強みと弱みの分析です。
私は売却を選びましたが、私とは反対に、売却せずに後継者が事業を承継すると決めたならば、ここまで作成した事知的資産報告書をステークホルダーごとに修正する作業が残っています。事業承継診断を目的に後継者に開示する為の知的資産報告書と、後継者以外のステークホルダーに開示することを目的とした知的資産報告書では、開示内容が違います。
リーダーシップを発揮するために社員に開示するのか、資金調達の為に金融機関に開示するのか、開示対象先によって修正点があるかもしれません。さらに、開示して都合の良い点と、秘密事項など開示しては不都合になる点もありますので、知的資産報告書の作成にはこの点も充分に注意下さい。
知的資産報告書を先代経営者と後継者が作成することにより、先代経営者の経営理念と、先代経営者のビジョンの現在位置がわかります。先代経営者の掲げるビジョンが今どこまで進んでいるのかを知り、そのビジョンの現在地から、今度は、後継者が10年後、20年後のビジョンを作成できるか否かが問われます。
10年後、20年後の自社のあるべき姿を立案できない後継者は、後継することを諦め、別の道を歩むこと考えみてはいかがでしょうか。早めに決断したことによって他社に転職し、別の道で生き甲斐を見つけている後継者もいます。後継者として従事している期間が長ければ長いほど、見切りをつける決断が出来ず、破綻するまでズルズルとしがみついてしまっています。早めの決断ができれば、生き延びる様々な方法が見つかりますので、知的資産報告書を早い段階で作成し、後継者自らの事業承継診断に活かしてください。
自分の過去の成功事例と経験則があれば、荒波を乗り越えることができる、といった過信を持つ先代経営者は、変革を嫌い現業の維持に必死なのかもしれません。しかし、今は変化の激しい時代です。時代の変化に対応できず、変ることに躊躇しているということは大きなリスクとなる時代です。一方、変革を嫌う先代経営者とは反対に、自ら10年後、20年後のビジョンを描ける後継者は、先代経営者に変革を求め、経営リスクを軽減する提案の切り口として、知的資産報告書の共同作成を是非検討して頂きたいのです。
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